現場に単身乗り込む中国茶研究家の本
5月20日に中国茶に関する新しい本が出版されたので、早速Amazonで購入し、読みました。
著者は、中国&台湾茶教室ーTea Salon Xingfu を主宰されている今野純子さんです。
エコ茶会でも講師をお願いしていたり、毎年、生徒さんに茶席を持っていただいたりしています。
日本国内にも中国茶の先生は数多くいますが、今野さんほどの方は、そうはいないと思います。
まず、かつては中国の国家職業資格だった、高級評茶師をお持ちなのですが、その取得ルートが他の日本人とは大分違います。
多くの日本人の方は、日本の中国茶団体が実施する日本語の講座を受講するか、北京や上海などの日本人向け中国茶教室の講座を受講して取得しています。
が、今野さんは、現地のクラス(完全に中国語での授業。日本語に翻訳されても意味不明な専門用語が飛び交う)に外国人として単身で参加し、資格を取得しておられます。しかも優秀な成績で。
そう聞くと「元々、大学が中国語学科なんじゃないの・・・」と思いがちですが、中国語を本格的に勉強したのは社会人になってからだそうです。マジか・・・
さらに、そこで一緒に勉強した仲間(評茶員クラスに学びに来る人のうち一部は、中国各地のお茶の生産者さんです)のところに製茶シーズンに出向いて、一緒に製茶をしたりしています。
それも1年だけ物見遊山で遊びに行くというのではなく、毎年通って勉強するというガチな訪問です。
そのようにして、特定の茶農家さんと深い繋がりを作り、またそこから茶縁が広がって、他の産地の名人のところへ・・・という現地情報の学び方をしています。
どこか1カ所の産地に対して、入り込み方をしている日本人は、稀にいます。
しかし、中国の広い範囲の産地に毎年、何度も繰り返し訪問をしており、それでいながら日本では自分の教室の他にもカルチャースクールで何件も教室を抱え、教えることを両立している。
こういう人は、さすがに他に知りません。
真剣に茶作りに取り組む茶農家の姿を捉えたエッセイ
この本は、エッセイという形でそんな今野さんが現地で巡りあって、共に学んでいる茶農家さんの姿が描かれた本です。
章立てとしては、浙江省、福建省、台湾、雲南省と広西チワン族自治区の4章に分かれていて、それぞれの地域の複数の茶農家さんとのエピソードが掲載されています。
茶摘みや製茶の作業の厳しさや、お茶を評価(いわゆる評茶)する際の茶師のこだわりといった、生産現場の凄みを感じるような話が中心ですが、そればかりではなく、農家や地元の人々との心温まる交流、美味しい農家ご飯やご当地グルメの話まで。
特に、武夷山の製茶現場で入ったばかりの新人がこっぴどく叱られる場面や評茶で見ている内容の細かさなどは、製茶現場のプロの厳しさを多くの人に知ってもらうためにはぜひ読んでいただきたいエピソードだと思いました。
なお、お茶の旅のエッセイというと、自分でも行けそうな場所について書いてある、旅行記調のものが多いのですが、この本はちょっと行けそうにないところが中心です。
普段はなかなか立ち入れないような、正山小種の村である桐木村の様子や山奥の村の話もあり、さながら「クレイジージャーニー」を見るような感覚になります。
ある意味、過酷な地方の宿泊状況なども描かれており、まだまだ豊かではない茶産地の姿も分かりますし、その一方で、非常に高値で取引される名茶の現地の相場感なども記述されていて、中国の茶業の二面性も見えてくるように思います。
産地や生産現場の様子を知りたい方にオススメ
様々なエピソードを読むことで、産地や生産現場の様子、特にそこに携わる人々の姿が良く分かるように思います。
中国というと、どうもネガティブなイメージで報道されることが多いのですが、土とともに生きている中国の方の農家の生真面目さは実際に訪問すると驚かされることがあります。
そうした姿を垣間見ることができ、読書を通じて茶産地の旅ができる本だと思いますので、中国茶に興味のある方には読んでいただきたい本だと思います。
気になることを挙げるとすれば、中国茶の専門的な用語が多いので、校閲が不十分だった点でしょうか。
群体種、三坑両澗など、ちょこちょこと誤記が見られます。
また、記載されている内容は、あくまで特定の茶農家さんの目を通じて、その茶の世界を捉えたものです。
上記のようなことから、教科書的に読むのではなく、目の前のお茶がやってきた背景などをイメージするものとして読むのが良いかと思います。
なお、中国茶関連の本は、なかなか再版がかからないことも多いので、読みたい方は早めに確保されることをオススメします。
『中国茶&台湾茶 遥かなる銘茶の旅』
著者:今野 純子
出版:秀明大学出版会
発売:2021年5月20日
ISBN:978-4915855436
定価:1,200円+税
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