お茶

『お茶の科学』(ブルーバックス)

5月に発売された『お茶の科学』(ブルーバックス)を読みました。

お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ (ブルーバックス)

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著者は、大妻女子大学名誉教授の大森正司先生。
日本茶関連の著書も多数あり、NPO法人日本茶普及協会の理事長を務められています。
ある程度、お茶の世界に首を突っ込むと、どこかで必ずお名前やお話を聞くことのある、大先生です。

ブルーバックスといえば、科学のお話を手軽に読むことができる、講談社刊行の伝統ある新書シリーズ。
飲み物関連で行くと、先行して出版された『コーヒーの科学』が驚異的に面白い本だったので、期待は高まります。

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)

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科学要素を取り入れたお茶の雑学本

この本は、

第1章 お茶の「基本」をおさえる
第2章 お茶はどこからきたのか?
第3章 茶葉がお茶になるまで
第4章 お茶の色・香り・味の科学
第5章 お茶の「おいしい淹れ方」を科学する
第6章 お茶と健康
第7章 進化するお茶

という7章の構成になっています。

冒頭の「はじめに」の部分では、「お茶のフルコース」という、お茶の美味しさをとことん飲み、最後には茶殻を食べるまで味わい尽くすための方法論が載っています。
かなり強烈な掴みの話で、実に大森先生らしい本だな、と思います。

第1章はお茶とは何か、という定義の部分から、1本の茶の木からでも、緑茶、紅茶、烏龍茶と様々なタイプのお茶を作ることができることが記されています。
また、緑茶、烏龍茶、紅茶のさまざまな種類や基本的な蘊蓄が書かれているほか、黒茶についても触れられています。

第2章では、お茶の歴史に始まり、お茶の原産地からお茶がどう伝播していったのかが、書かれています。
その中には、大森先生が雲南やミャンマーなどへ茶のルーツ探しに出た時の記述があります。
また、日本における茶の自生説と渡来説についても、DNA解析も絡めた話として掲載されています。
大森先生の主張を知る方なら、「先生らしいな」と感じることでしょう。
また、日本での茶の生産の広がりや紅茶、烏龍茶の日本への導入についても紹介されています。

第3章では、緑茶、紅茶、烏龍茶、黒茶の製造方法について簡単に紹介されています。
黒茶のところでは、大森先生が関わっている石鎚黒茶の再現の話なども出ていて、これまた先生らしさが出ています。

第4章では、お茶の色や香り、味を構成する茶の成分について記述されています。
この部分は、あまり今までの本では分かりやすくは解説されてこなかった、製茶プロセスによる茶の成分の変化を解説しているので、この点に興味のある方は、ここの部分だけでも読む価値はあると思います。
といってもページ数では30ページほどの中で、緑茶、紅茶、烏龍茶と触れているので、ほんのさわりの部分だけではありますが。

第5章では、お茶の「おいしい淹れ方」を科学するということで、お茶の成分(うまみ成分のアミノ酸や渋み成分のカテキンなど)の抽出を時間や茶葉量などを変化させたときにどう変わるか?をグラフで示しています。
それをベースに、お茶のオススメの淹れ方を紹介しています。
日本茶についてはかなり詳しい記述があり、紅茶、烏龍茶についても少し触れられています。
硬水と軟水、保存についても、ほんの僅かですが記載があります。

第6章は、お茶と健康ということで、お茶の成分の中でも健康に影響を与えそうな成分についての紹介がなされています。
また、大森先生が深く関わっているギャバロン茶についても記載されていて、これまた実に大森先生らしい・・・と思います。

最後の第7章では、お茶のペットボトル飲料化への苦労の歴史や新しい抽出法、形態などについて紹介、考察されています。

全体的に、あまり難しい用語の使用はなく、すぐに使える・やってみたくなるちょっとしたコツや人に話したくなるような雑学を分かりやすく紹介することが中心で、そこに科学のエッセンスが振りかけられた本という印象です。
科学的なストイックさすら感じる『コーヒーの科学』とは、ちょっと方向性が違うように感じますので、『コーヒーの科学』からの流れで購入した人には、少し物足りなく感じるかもしれません。
※お茶はコーヒーやワインと比べて科学的なアプローチに弱かった面があるので、仕方ありません。追いつくまでには、まだ10年単位で時間がかかると思います。

 

中国茶の記述は、いささかクラシックすぎる

嗜好性飲料は何でもそうですが、お茶という飲料をしっかり理解しようと思えば、科学的な部分を避けては通れません。
しかし、今までのお茶の本は、どうもそこではなくて、歴史だったり精神性、文化といった文系的な視点から書かれた本が多かったのです。
その点において、この本は「待望の本です!」と、紹介したいところだったのですが・・・

中国茶の視点から見ると、非常に疑問を感じる記述が多数あるのです。
これをそのまま教科書的に覚えられると困るな、と感じるところがあります。

読んでいて、私と同じように「モヤッ」とした方もいらっしゃると思うので、敢えて挙げますと・・・

いちばん根本的なところで行けば、中国茶の六大茶類を「発酵度によって分類している」としているところです。

これは明確に間違いでして、実際のところは「製法」によって分類されています。
発酵度は、あくまで製法の結果にすぎません。因果関係を取り違えると混乱します。
※お茶を製法で分類していることは、2014年制定の中国の国家標準等でも明記されています。緑茶や紅茶のISO基準もそうなっているはずです。

ほかにも、「明らかにこれは間違いでしょう」という点をつらつら挙げていきますと、

○東方美人茶(産地が新竹市になっている。年に1回しか摘まないことになっている)
→正しくは新竹県、苗栗県、桃園県、新北市とすべき。クオリティーシーズンは年1回ですが、実際には初夏から冬まで、長く生産されています(新竹県では夏と冬の2回コンテストがあります)。

○ウーロン茶発祥の逸話が残る「正山小種(ラプサンスーチョン)」
→これは紅茶の間違いではないでしょうか?ウーロン茶は諸説ありますが、石古坪烏龍を挙げる声が大きいように思います。

○南投県は山岳地帯からなり、凍頂山、阿里山、梨山、杉林渓など、名茶の名となった山々が連なります。
→阿里山は嘉義県です。梨山も台中市と南投県に跨がるので、「南投県」だけでまとめるのは、適切だとは思えません。

○世界最古の紅茶の産地として知られるキームン。・・・スモーキーで濃厚な香り
→祁門は最古の産地ではなく、福建から製法を学んだということが文献にも残っています。スモーキーなのは安価な紅茶全般の特徴で、祁門紅茶の特徴は玫瑰香と呼ばれる香りです(祁門の人に祁門紅茶の特徴はスモーキーなところですよね!とか言ったら怒られます)。

など、パッと挙げられるだけでも、上記のようなものがあります。
編集の方、編集・校正しているときに、気づかなかったんでしょうか・・・

ほか、茶の歴史についても、かなりあやふやな感じを受けるところがあります(現代中国への記述が、ほぼないなど)。

全般的に感じた印象ですが、中国茶の知識については、かなり古い情報(おそらく20年ぐらい前)のままアップデートされていないのではないか、と思われます。

中国のお茶は、21世紀に入ってから、もっと言えば、ここ10年ほどで急速に整備が進んでいます。
2017年出版の本なので、せっかく出すのであれば、最新のアップデートされた情報をきちんと載せて欲しかったのですが・・・
どうもそうではないようなので、読み手の方で新しい情報と照らし合わせ、検証して読む必要があると思います。
※専門外なので指摘していませんが、紅茶の専門家の方が読んでも、いろいろ気になるところはありそうです。せめて日本茶の記述は大丈夫であると良いのですが・・・

いずれにしても、中国茶の最新情報がきちんと第一線の先生方のところに届いていないのは、大いに問題です。
このへんは中国茶業界側のPR不足なり、情報提供不足もあると思うので、何とかしないといけません。
いまや中国はお茶の最先端を行っている部分も多分にあるので、それが伝わっていないというのは、日本のお茶業界を考えても非常に問題です。どんどん、世界から遅れていきます。

・・・ちょっと話が脱線しました。

この本ですが、中国茶に関する記述は割り引いて読む必要がありますが、お茶の化学的な成分などについて、分かりやすくまとまっている本であることは間違いありません。
ブルーバックスなので、手頃に買えて読める本ですから、お茶に関心のある方は、一読されることをおすすめします。

 

お茶の科学
著者:大森 正司
出版:講談社 ブルーバックス
発行:2017年5月20日
ISBN:978-4-06-502016-6
定価:1000円+税

 

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