お茶

月刊中国ニュースの特集「超高額化する茶葉」

最近、中国から流れてくる高額なお茶の話

最近、中国から流れてくるニュースを見ていると「餅茶の1枚の値段がBMWを買えるぐらい」だとか、とにかく超高額なお茶が多いというニュースを目にする機会もあると思います。

こういう「価格」に関するニュースは、日本のメディアでもアクセス数が稼げるので、割と頻繁に流れてくることが多いかと思います。
テレビの情報番組やワイドショーなどを見ていても、激安なお店とかものすごく高い商品とかの紹介はある意味、鉄板コンテンツですし。

実際、中国もその傾向はあり、「どこどこのオークションで、○○茶が××元で落札!」とか「超有名な茶師が丹精込めて作ったお茶。価格は何と△△元!」とか、お値段の話はみんな大好きです。
お茶を知らない人でも、値段だけでビックリできますからね。コンテンツとして消費するのはピッタリです。

 

「まあ、正直、こういうニュースは迷惑だよね」という話

ただ、こういう情報ばかりが流れすぎるのは、あまり良くないことだと個人的には感じています。

まず、「中国茶は高い。バブル価格だ」という印象が先行してしまうということ。
実際には中国茶の圧倒的多数は、手頃なお茶ばかりなのですが、一部のこうしたお茶だけがクローズアップされ、ヘッドラインだけでもメディアでバンバン露出すると誤解されます。
そもそも、現地でも、とても珍しいくらい高いからニュースになっているのです。

現地の人にすれば、日常買っているお茶と随分違うな、と思うので、「また、あくどい商人が出てきたのか」で、終わりです。

しかし、一般的な日本人は、中国茶に触れる機会がそもそも少ないのです。
中国茶の相場感も基本的には無いので、こういうニュースばかり見ていたら、「中国茶はこういうのばかりなのかな」と感じてしまうでしょう。

多少誇張して説明するならば、普段中国人に接する機会も無い人が、昔のテレビでやっていた、びっくり人間の中国人ばかりを見ていたら、中国人は誰でも曲芸ができると誤解するようなものです。
日本との接点の無い外国人が、日本に対しておかしなイメージを持っていることもありますし、情報が少ないところに極端な情報が入ってくると、そういう誤解は良くあるものです。

 

もう1つは、正当な価格を評価できなくなることです。
今、”中国茶は手頃なお茶ばかり”と書きましたが、舌の根も乾かぬうちに訂正しますと、中には原価的にどうしても高額になる茶葉もあります。

たとえば、全て早春の細かな新芽を集めて作るような、西湖龍井茶のような名前の通った高級な中国緑茶とか、メチャクチャ製茶や焙煎に手間暇を掛け、崩れ葉を大量に出しながら精製していく超歩留まりの悪い武夷岩茶とか。
こういうお茶は、そもそも材料費と人件費のカタマリみたいなお茶なので、お茶を生産するのにかかる費用が桁違いです。
日本の伝統工芸品の器とか着物と同じような存在なので、ある程度の値段はするわけです。

その一方で、日本のお茶は生産者の方の血の滲むような機械化努力のおかげで、お茶の値段はかなり低く抑えられています(100g1000円という目安、もう数十年変わってませんよね。完全にデフレです)。
これはこれで素晴らしいことなのですが、そうなると手摘みで丁寧に作られるお茶の正当なはずのお値段が、もれなく高く見えてしまうという弊害もまたあります。
消費市場がこうなってしまうと、生産者側・流通業者側の発想も、「原価を掛けてでも良いお茶を作る」では無く、「いかに低い原価で不味くないお茶を作るか」になってしまいがちです。

それはさておくとして、日本の一般的なお茶の相場感から見ると、中国の有名なお茶はどれも高く見えるわけですね。
その”日本のお茶の相場感(といってもそれは機械摘みの相場)”に合わせて、”手摘み”の中国茶・台湾茶あるいはダージリンの農園物など、特に超有名なスーパーブランド茶を見ると、全てが高く見えてしまうわけです。
100円ショップの器と作家さんのハンドメイドの器の値段を比較するようなものなのですが。

そこに先程のような”法外に高いお茶”の情報に触れていると、「やっぱり、中国のお茶はバブル価格だ」と謎の連想が働いて、正当な価格にもケチを付けてしまうという、残念な反応になりがちです。
実際には正当な価格ですし、飲み方も違って茶葉使用量や飲める量も全然違うので、コストはそこまで高くないのですが。

まあ、この手の中国茶に関する情報は、全然ありがたくない情報だと思います。

 

中国で騒いでいる”天価茶”の話を特集した雑誌が

そもそも、中国で騒いでいる法外な値段のお茶は、現地でも”天価茶”と呼ばれるものです。
元々の原価とはあまりにもかけ離れた値段を、流通業者などが価格吊り上げや自分の会社のブランドイメージ確保のために設定するというものです。
さらには、こうした高額なお茶を隠れ蓑にして、地方政府の担当者への賄賂に使用されたりするので、中国では社会問題になっています。

このあたりの内容を正確に伝えようとすると、そもそも中国というのはどういう社会体制になっているかとか、役人の出世とはどのように行われるのかとか、茶業というのは中国の産業の中でどういう位置づけか、そもそも茶産地というのは中国の中で裕福な地域なのかそうでないのか、とか色々なことを一つ一つ説明しなければ理解ができません。

誰かそういうのまとめてくれないかしら・・・と思っていたら、『月刊中国ニュース』という月刊誌の最新号の特集が、まさにその記事でした(ようやく本題に入る)。
この雑誌、『中国新聞週刊』という中国の雑誌の日本版なので、この記事も翻訳記事なのですが、非常に良くまとまっている特集記事だと思いました。
最初に、”天価茶”という超高額なお茶がどのようにして生まれているのかというメカニズムを、生産者、流通業者、地方政府当局、茶葉流通協会など様々なところへ取材し、解き明かしていきます。
ここのところ話題になっている大益の”金融茶”の話や、”錦繍茶尊”の話なども掲載されていて、まさに中国の最新事情を詳しく調べているな、と思います。

さらに、お茶だけではなく高額なお酒(茅台酒など)を通じて、どうやって役人が賄賂にしているのかの具体的な手口なども書かれています。
国営の出版社の雑誌で書いていいの?と思うくらい、手口が詳細に書かれていて生々しいので、なるほど高額なお茶はこのように消費(というより循環)しているのか、と感心します。
※おそらく、腐敗撲滅の一環で見せしめというか、「そんな手口は、もうお見通しだ!」的な抑止力を期待してのことだと思います。

さらに流通を管理している、中国茶葉流通協会の方にロングインタビューをしていて、トレーサビリティー制度の必要性についてお話をされていたりします。
牛欄坑の肉桂が何でそんなに量があるの?みたいな話を取り締まるには、生産量を完全に把握して、それをシステムに乗せるしかないと考えているらしいです。
あとは、2018年1月に改正された標準化法によって、中国の標準制度の在り方とかがだいぶ変わった話が出て来ます。
これ、今、「標準を読む2021」という講座を作っていますけど、この1,2年でだいぶ変わっているので、様変わりという印象は強いです。

 

・・・と、かなり細かな情報が分かる貴重な特集記事なのですが、どなたにでもお薦めかというと、そういう雑誌ではありません。

まず、基本的には翻訳記事なので、中国語ならではの言い回しが多いですし、めちゃめちゃ漢字が多いです。
そのあたりに抵抗がない人なら良いのですが、24ページなのに文字が結構ビッシリなので、かなり読みごたえがあります。
あとはドロドロした黒いお茶の世界が苦手な方は読まなくて良いと思います(^^;)

ちょっと硬派に中国茶の現状を知りたいという方なら、とてもお薦めできます。
色々散らばっている中国茶に関する情報が、だいぶ繋がって整理されるのでは無いかと思います。

購入ですが、マイナーな雑誌(失礼)なので、書店ではほとんど見かけないと思います。
一応、Amazonでも購入できるのですが、基本的には出版社直発送なので、少し時間がかかる点は気をつけた方が良いかもしれません。
なんなら出版社( アジア太平洋観光社 )に、直接申し込むのも手です。

 

 

最後に宣伝を。
上でも少し書きましたが、中国のお茶を定義している「標準」の制度がだいぶ変わりました。
それに合わせて、セミナー「標準を読む2021」をオンラインで開催しています。
従来のものは6回シリーズでしたが、今回はオンラインで試飲が無いのと中国茶の基礎部分の説明は中国茶基礎講座に移管したので、回数を4回に。
レジュメ・参考資料はPDF配布にすることで、印刷が不要になったので、これでもかというくらい資料をお付けしています。

今まで、第1回と第2回を終了しましたが、レジュメ・参考資料がとにかく膨大です。
第1回のレジュメと参考資料を合わせると、65ページ・約3万5千字。
第2回のレジュメと参考資料を合わせると、94ページ・約4万5千字。
と、既に合計で8万字を突破していて、かなりのやり過ぎ感が漂っています・・・
以前紹介できなかったお茶についても紹介していますし、2018年に大きく中国の制度が変わったので、以前の講座に参加していただいた方でも、かなり参考になるのではないかと。
8月と10月に1日2コマをまとめて開催するコースを新設しますので、ご興味のある方はぜひご参加ください!

 

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