お茶

台湾のお茶ガイド(2)高山烏龍茶

台湾のお茶ガイド第2弾は、現代のエース。
高山烏龍茶です。

台湾の風土と技術が生んだお茶

台湾は九州よりも少し小さいぐらいの面積ですが、島を南北に貫く中央山脈には、3000m級の高山が連なっています。

高山地域では、平地よりも気温が低めなので茶樹の成長がゆっくりであること。昼夜の気温差が大きいこと。朝晩は霧や雲に包まれ、強い日差しがやわらぐこと。茶に適した土壌があることなど、品質の良いお茶を産出する複数の条件を満たしています。
このような環境で育ったお茶は、芽や葉が柔らかく、葉肉も厚く成分豊富になり、香りや味わいに厚みのあるお茶になります。

こうした恵まれた土地に茶を植え、文山包種茶や凍頂烏龍茶などで培った台湾の製茶技術を活かして作り上げた現代の名茶が、高山烏龍茶(こうざんうーろんちゃ)です。

一般的には、海抜1000m以上の土地で作られたものを「高山茶(こうざんちゃ)」と呼びます(高山茶だけでも、ほぼ烏龍茶のことを指します)。
さらに海抜2000m以上の超高山で生産されたものを、特に区別する意味で「高冷茶(こうれいちゃ)」と呼ぶこともあります。

高山烏龍茶は、生葉の素材の良さをそのまま提供するという考え方と高山特有の製茶環境から、市場に出回るものは、発酵も焙煎も軽い、清らかタイプ(清香・チンシャン)のお茶が多めです。


そのため、外観やお茶の液体の色(水色・すいしょく)も、緑がかったものが多くなります。
発酵が少し重めのものは、水色がもう少し黄みがかり、金色に近くなります。

また形状は、しっかりと丸まった形になるため、同じ3gなのですが、文山包種茶と比べると嵩の違いは歴然です。
お湯を注ぐと、思いのほか大きく広がりますので、茶葉の入れすぎには注意しましょう。

 

高山烏龍茶の産地

高山烏龍茶は、山がちな台湾なので、島内のあちこちで生産されています。
実際に店頭で販売される際は、それぞれの地域名(あるいはさらに狭い集落名・農場名等)を冠し、「○○烏龍茶」のようにして発売されています。

その中でも、産量が多く、よく見かけるものは主に以下の3つの産地です
※標高については、よく言われているものを記載していますが、正確ではありません。というよりも、標高よりも味に影響を与える要素は数多くあるので、標高だけ詳しく覚えても、あんまり意味はありません。

 

阿里山(ありさん)

世界的に優良な茶園が多いという、北回帰線周辺50kmの範囲。
その位置にある、嘉義縣の阿里山一帯に広がる茶産地です(阿里山、竹崎、梅山、番路、中埔、大埔などの郷鎮が含まれます)。
台湾で、もっとも生産量の多い高山烏龍茶の産地です。

この地域の標高は800~1700mほど。傾斜が緩やかな地域では、大規模に茶園が開発されているところもあります。

かなりエリアが広いので、より細分化して、石棹、太和、樟樹湖、梅山など、地域の名前が前面に出ることもあります。
茶園は観光客が行く風景区の中にはなく、そこへ行く途中のバス道路(阿里山公路)沿いに、たくさん広がっています。

↑バスの車窓より。ブレてて、すみません。

ひとことで阿里山と言っても、標高や気候、土壌の質が違うので、特徴は一概には言えません。が、発酵軽めの軽快なタイプが多いように感じます。

なお、「阿里山」というのは「北アルプス」のような山系の名前です。
阿里山という1つの山があるわけではありません。

 

杉林渓(さんりんけい・シャンリンシー)

凍頂烏龍茶のふるさと・南投縣鹿谷郷から山の方へ入った、嘉義縣・雲林縣との県境付近にあります。
1980年代半ばから開発が始まりましたが、鹿谷に近いこともあり、関係は大変密接で、鹿谷在住の茶農家さんが、こちらにも茶畑を持っていることもあります。
周辺には、杉林渓森林遊楽区という、森林を活かした公園のようになっているところがあり、その名前を冠した茶区名になっています。茶園の標高は1000~1800mほどです。

特徴としては、凍頂烏龍茶で鍛えた鹿谷の方が製茶をしていることが多いので、発酵をきっちりさせた厚みのあるお茶であったり、逆に透明感のある体に染みこむようなお茶に出会うことが多いです。結構、パワフルで酔いそうなお茶にも出会います。
阿里山や梨山ほど名前は売れていませんが、なかなかの実力派の産地だと思います。茶藝館などではベストなコストパフォーマンスであることも多いです。

 

梨山(なしやま・りざん)

台中市と南投縣に跨がるようにして広がる、台湾で最も高い標高の茶園があるエリアです。

茶園の標高は1600m~2600mと、全体の平均海抜も高く、2000m越えのいわゆる「高冷茶」の産地が広がるのが特徴です。
南国の台湾でありながら、冬には雪が降ることも珍しくない、という地域です。

なお、梨山という単独の山があるわけでは無く、台中市和平区にある梨山という集落が中心なので、その周辺の産地を束ねて「梨山茶区」と呼ばれています。

梨山茶区の中には、元・国営農場である福寿山(ふくじゅさん)農場、武陵(ぶりょう)農場といった著名な農場もあります。
また、台湾茶の最高峰として知られた、大禹嶺(だいうりょう)も、梨山茶区です(残念ながら、2015年秋に大禹嶺最大の茶園の大部分は伐採されてしまったので、産量は激減しています)。
このほか、著名な地域としては、華崗、翠巒、佳陽、新佳陽などがあります。

地域的にはかなり広いのですが、実際にはほとんどが山地。
茶園が広がるのは、道路からアクセス可能な僅かな地域だけです。
そのため、生産量は阿里山ほど多くはありません。

かなり広いエリアに分布していますので、特徴はこれまた一概には言えないのですが、冷涼な気候ということもあり、ワインでたとえればフルボディのような、かなり味わいに厚みがあり、余韻のあるお茶が多めです。

 

このほか、最近は宜蘭縣・新竹縣との県境付近にある桃園縣・拉拉山(ららさん)などの高山茶も、よく見かけるようになっています。

 

クオリティーシーズン

高山烏龍茶のクオリティーシーズンは、春茶と冬茶の年2回です。
ただ、ひとことで春茶、冬茶といっても、標高の差による気温差が大きいため、収穫時期は地域によってかなり違います。

イメージとしては、標高の低いところは4月ぐらいから摘み始め、阿里山などではゴールデンウィークのあたりが例年の茶摘みの最盛期に。
梨山茶区の2500m越えの茶園になると、5月下旬~6月頭にまでずれ込むことがあります。

一方、冬茶は逆に山の上の方から、低地へ下がっていくように茶摘み前線が移動します。
梨山茶区の大禹嶺などでは、9月に冬茶を摘み始めます。「それ、秋だろ?」と思いますが、9月でも冬茶です。もう寒いんです。
そこから、10月、11月と徐々に山を下っていく、というイメージです。

大禹嶺のように、春茶と冬茶の間隔があまりないところでは年に2回しか茶摘みができません。
が、多くの地域では、夏場にもう一度摘んだり、冬茶を収穫した後に「冬片(とうへん)」と呼ばれるお茶を作ることもあります。

 

オススメの淹れ方

高山烏龍茶は、香りと味わいの厚みが命です。
そして、かなりきつく丸まっているため、これをきちんとお湯で解してあげることが重要になってきます。
高温を維持すること、ちょっと高めの位置から湯を注いで、打たせ湯の要領で水圧を利用するなど、です。

香りを優先するのであれば、香りが吸収されにくい磁器の茶壺や蓋碗を使い、十分に予熱した後、高温(95℃以上)で淹れるのが美味しいと思います。
あるいは、素焼きの茶壺でも、薄手で硬く焼き締めた、香りを弾くようなものを使用するのも良いと思います。

水出しも可能ですが、丸まっているのがほぐれるまでに時間がかかるので、長めに冷蔵庫に入れておくか、一度、湯通しした茶葉を使うなどの工夫が必要です。

 

高山茶の値段が高い理由と標高の話

高山烏龍茶は、お値段が高くなります。
その理由は、生産コストが高いから、です。

まず、冷涼な気候なぶん、茶樹の生育速度が遅いので、産量が平地に比べると少なくなります。
さらに急斜面での茶摘みは効率が悪いため、1人あたりの摘める量が少なくなり、茶摘みのコストも上がります。
摘み手さんも、山奥なので家から通うわけには行きませんので、宿舎を作ったり近隣の宿を確保するなどして、宿泊費や食事代なども負担しなければなりません。

製茶のコストも問題です。
高山では、午前中は晴れていても、午後からは雲に包まれて雨、というような天候も多く、さらに天候が急変しやすいため、気軽に外で日光萎凋、というわけには行きません。
特に標高の高いところに行くと、全天候型の製茶施設を備えていないと、失敗作を量産することになりますので、この設備投資もかかります。

このほか、山奥なので物流コストも嵩むなど、とにかく平地とは比べものにならない程、コストがかかります。

それらのコストが価格に反映されているので、高山烏龍茶はお値段高めです。
だいたい、この追加コストは標高の高さに比例してかかってくるので、標高が高い地域のお茶ほど、お値段は高くなります。

あとは、それに見合うだけの価値(味)があるかどうか?を顧客が判断するということになります。

 

よく言われるのは、「標高が高ければ高いほど、美味しい」という俗説ですが、これはちょっと疑ってかかった方が良いように思います。
確かに、理屈の上では、標高が高いほど昼夜の気温差や気候の冷涼さは増すので、良い生葉は出来やすい条件になります。

が、製茶は標高が高ければ高いほどシビアになり、失敗率も高まるので、良い生葉でも台無しになることはあります。
また、気候による差よりも、土作りなどのお茶づくりの基礎をしっかりやっていたり、日当たりなどの茶園の基礎条件が優れている茶園の方が、良い生葉になったりもします。

なので、「標高が高ければ、美味いのだ」とは、一概には言えません。
標高の低い地域のものが、より標高が高く、値段の高いものよりも美味い、という逆転現象は、結構よく起こります。
標高は、品質を左右する、あくまで一要素です。
それだけを頼りにして選ばない方が良いのではないか、と個人的には思います。

 

ちょっと変化球なお茶

高山烏龍茶は、発酵も焙煎も軽めの清らかなタイプで青心烏龍(せいしんうーろん)種を使用したものが基本ですが、少し変わったバリエーションも、いくつかあります。

金萱種のお茶

一部地域では茶摘みの集中を避けるために、敢えて金萱(きんせん)種など別の品種を植えたりして、リスクヘッジを図るケースもあります。
金萱種は青心烏龍種に比べると、生産効率が高いため、同じ産地のお茶でも、金萱種の方が割安になったりします(感覚的には2割ぐらい安いです)。
高山茶は欲しいけど、まだ良さが分からない・・・という場合は、まずは低地の金萱種と比較的お手ごろな高山の金萱種を飲み比べて、違いを知るのも良いかもしれません。
味わいは青心烏龍種のものに比べて、軽めになりますが、微かなミルク香など、金萱ならではの違う持ち味もありますので。

発酵の重めなお茶

高山烏龍茶は発酵軽めなお茶が多いのですが、これには理由があります。
高山の場合、午前中は晴れていても、午後から雲に包まれて雨になったり、夜間の気温が低く、発酵を行ってくれる酸化酵素の働きが鈍くなったり、と発酵を進めにくい材料が揃っているためです。
そのため、基本は発酵度の軽いものを量産する、というスケジュールで工場を回しています。

が、ごく稀に、発酵が重めのお茶(濃香・ノンシャン)も出回ります。
これは、たまたま発酵度を高めやすい気候であった場合、あるいは特別オーダーが入った場合などです。
スペシャルロットだったりするので、少しお値段は高くなったりもしますが、高山茶はちょっと青いな・・・という方は試してみても良いかもしれません。こだわり強めなお店に行かないと扱いが無いとは思いますが。

焙煎を加えたお茶

高山烏龍茶は、素材の良さをそのまま!というスタンスなので、かなり青っぽいものも良くあります。
台湾人の方は青いのも好んで飲んだりするのですが、日本人の方の中には、「青っぽいのは苦手・・・」という方はよくいます。
その場合は、少し焙煎したお茶を入手してみるのも手です。
焙煎の過程で、刺激的な青みが飛び、より飲みやすくスッキリとした仕上がりになります。

 

続く。

 

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とりあえず、三大産地を覚えておけば何とかなると思います

 

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