中国旅行

福建烏龍茶の旅2017(5)武夷山のお茶工場にて

お茶工場へ

風景区の南入口で乗ったタクシーの運転手さんに連れてこられたのは、原っぱに道が一本。
その通り沿いに少し住宅などが並んでいる、ちょっと殺風景な感じのところ。
おそらく、風景区を立ち上げるときに移転用地として、新たに開発された地域なのだと思われます。

その中の1軒の茶工場に停車。
「ほら、本当に工場だろう」と運転手さんは得意げです。

工場へ入っていくと、20代後半か30代前半かなと思われる、お兄さんが切り盛りしているようです。
「加工場を見せてあげよう」と、揺青機や揉捻機、乾燥機、焙煎室などを案内してもらいました。
今は製茶シーズンでは無いので、作業していなかったことと、部屋が暗かったので写真は撮っていませんが。
お馴染みの烏龍茶の製茶器具がありました。規模的にはそんなに大きく無さそう。

あれこれ試飲

一通り見学したところで、2階に案内されます。
2階は試飲スペースになっているようで、ここでお茶を飲み、購入できるようです。

微信支付の立て札も立っていて、こういうところにまで使われているんだ、と中国の電子決済の広がりを感じます。
ここで試飲の相手をしてくれたのは、おそらくお兄さんの奥さんと思われる女性。

まずはこれを飲んでみて、と提供されたのは、清香型の大紅袍。

んー、これは好みじゃ無い・・・(-_-)
私、岩茶は最初に美味しいと思ったのが伝統的なヤツなので、清香系の岩茶は物足りないのです。
ていうか、それなら台湾茶とか他のお茶飲むよ、的な。

「清香型のでは無くて、もう少し伝統的な焙煎をしたものは無い?」

と聞くと、それなら水仙ね、と水仙が出てきました。

ただ、この水仙、どうも今ひとつ。
酸味が強く出てしまっているんですね。

それでも2種類飲んだところで、「あ、この人の作り方なら、香り系の品種は良いかも」となんとなく感じました。

そこで、肉桂をお願いすると、これはなかなか美味しい。当たりでした。
値段を聞いてみると、比較的リーズナブルです。

この価格でこの品質なら、ここの工場は当たりかもしれないと思いました。

生産地でのお茶選びは真剣勝負

期待に応えてくれそうな気がしたので、ここで変化球を1球投げてみることにしました。

奇蘭はあるか?と。
甲高い香りの品種なので、もし作っていれば、多分美味いはず。
それでいてお値段も高くないはず、という読みです。

これには、

「何故、奇蘭を知っているんだ?」

と、お兄さんもお姉さんも、ちょっと驚いた風でした。
まあ、普通の観光客は知っていても、大紅袍と肉桂に水仙。それに加えて五大名欉ぐらいですからね。
蘊蓄で覚えるのは、そのぐらいでしょう。

おそらく、タクシーで連れられて来られたので、「何も知らない日本人が来たぞ」と思ったんでしょうねw
だから、最初にお値段手頃で、北方の大都市でウケそうな清香型の大紅袍を出してきたのでしょう。
武夷の伝統焙煎だと強すぎるという人も多いので、もしそうなったら、商談はそこで打ち切りですから。

向こうも試飲させながら、言葉を交わし、あるいは飲み方・味わい方などから、お客さんのレベルを見極め、それに合ったものを投げてきます。
悪く言えば値踏み。良く言えばニーズを探ってくるのですが、ここはニコニコ受けつつも、真剣勝負のところです。

あんまり飲みつけていないと思われる人には、それなりの価格帯・品質のお茶で、まずジャブを打ってきます。
それに対して、どう反応するか?で、その後の展開は全く変わります。

本当に良いものでないと納得しなさそうな客。でも、相応の値段を出す覚悟はありそう。
さらに、向こうが今後も付き合いたいと思ってくれれば、良いお茶が出てきます。
が、知ったかぶりをしている”カモ”だとか、単なる一見の客にしかならないと思われれば、適当にあしらわれます。
これ、販売側の立場に立ってみると当たり前のことなんですけど。

要するにポジショニングなんですが、初対面なのにあんまり鋭すぎると嫌われちゃいますし、かといって無知すぎるように見えてもいけないし・・・
このへんの加減が難しいです。紹介とかで訪問すれば、ある程度の共通理解があって始められるんですけど。
今回のような全くの初見のところでは、向こうもこちらもゼロから(場合によってはマイナスから)値踏みしてきますから、未だに緊張します。
最初の30分ぐらいで失敗すると、そこで低い格付けにされてしまい、良いお茶があっても出て来なくなってしまうので。
第一印象はお茶屋さんでも大事です。

 

で、出てきた奇蘭は、予想通り、なかなか美味しかったです。
清香型の奇蘭は香りが鋭すぎてあんまり好きじゃないんですが(なら、何故注文した・笑)、ここのは火入れもしっかりしているので、私でも飲めます。
やはり、この人は香りの品種を使って、伝統的な仕上げにするのが得意なようです。
読みは当たりました。であれば、肉桂を軸に攻めましょう。

こうしたやり取りを、運転手さんも途中までは座って聞いていたのですが、少し落ち着かない感じで、そのうち外へ出て行きました。
「ん、この反応は、実は自分の家じゃ無いな?」と思ったのですが、あとで分かったのは奥さんのお父さんだったようです。
娘の嫁入り先に来ていたわけです。なるほど、家には違いないけど、落ち着かないわけだw

出てくるお茶が変わった

こうしたやりとりの後は、出てくるお茶が明らかに変わりました。
良いお茶を買ってくれそうな人として認定されたんだと思います。
まあ、お値段も倍以上に変わりましたが・・・(^^;)

まず、肉桂のもっと良いものが出て来ました。
伝統的な重焙煎で、かつ「おお、岩韻!」と明確に分かるもの。
こういうのを待ってたんです。

さらに、うちで一番良いヤツを飲ませる。うちでも5斤しか無い。という馬肉(馬頭岩の肉桂)を飲ませてもらいました。
これはさすがに素晴らしい出来で。
このクラスになると、「美味い!」じゃなくて「スゴい!」になります。それが岩茶。
お兄さん、「馬肉には独特の”覇気”があるだろう」とニヤリ。

できれば少量でも買いたいところだったのですが、当然、お値段も素晴らしい価格で予算を完全オーバー。
まさか、初日からまともなお店に来るとは思っていなかったので、人民元をそこまで持ってこなかったのが失敗でした。。。
※微信では払えても、カードは切れないのが中国です。馬肉~(T_T)

他にも、金駿眉を紹介したいとのことで、2種類を飲ませてもらいました。

「え、これが同じ金駿眉?全然外観が違うじゃん」と思いました。
まあ、今の金駿眉ってのは、こういう状況です。いろんなのがあります。
正山堂の金駿眉だけが金駿眉ではありません。

右は模範的な金駿眉で、フルーティーな香りのする、なかなか良いお茶でした。
左のお茶は野生古茶樹の金駿眉とのこと。こちらは香り自体は、特筆すべき点は無いのですが、透明感のあるお茶で、余韻がじんわりと続く感じです。
どちらが良いお茶か?と問われれば、明らかに左のお茶なのですが、金駿眉というお茶の特徴を表すのは、おそらく右のお茶ですね。
お値段も左の方が1.5倍しますが、高ければ良いというものでもありません。

 

と、このぐらいのやりとりを1時間ほどで。
手持ちの人民元のある限り、あれこれ購入しました。
あー、もっと現金を持ってくるべきだった、と反省しましたが、まあ、今回は地ならしということにしましょう。

ここは多分、当たりなので、ご縁を繋ぐ努力をした方が良さそうです。
若いお兄さんがやっているというのも良いです。伸びしろがあるということですから。

お父さん、いなくなる

で、パッキングしてもらい、お支払いも終わったので、ホテルへ戻りたいと思います。

・・・と思ったら、お父さんが「友達と飯食いに行くから、コイツにホテルまで送らせるよ」と、若旦那にまさかの丸投げw

目的は達したので良いのですが、それってありなの?(^^;)

ホテルまで送ってもらう道中、お兄さんに、いつ頃来たら良いお茶があるか?という話を聞いてみました。
もちろん、これは「また来るぞ」という強めの意思表示です。

お兄さん曰く、10月20日頃だね、と。

このぐらいから、その年の新茶が出回るそうです。
とすると、私が来た11月1日ってのは割と良いタイミングだったのかもしれません。
清香系の岩茶なら、焙煎の作業が少ないので、もっと早めに出回るんですけど、伝統的なのが欲しい方はこの時期ってことですね。

車で5分ほどでホテルに到着。
連れてこられるときは位置関係が分からなかったのですが、近いというのは本当だったようです。
やはり、あのお父さんは正直者でしたね。途中でお友達と食事に行っちゃったけどw

ところが困ったのが車代です。
お父さん、受け取らずに食事に行ってしまったので・・・いくら払えば良いんだ、と。

お兄さんが携帯で電話しても、繋がりません(ここで、携帯電話のアドレス帳により、義理のお父さんであることが判明)。

「(お父さんの)電話番号も知っているし、また来るんでしょ?じゃあ、今度で良いよ」とのことに。

おいおい、それで良いんかい!と思いますが、まあ、それなりの額を買いましたし、1時間少々のやり取りで波長が合ったんだと思います。
どうも、来年も再訪する必要ができちゃいましたね(^^;)

 

ちなみに、今回の滞在先はラマダ武夷山にしてみました。

新しく開発された高級別荘地の中にあるホテルで、近隣にはいくつか5つ星ホテルもあります。
街中から離れていて、どこかに出かけるのは億劫になる立地ですが、武夷山風景区の南入口までは徒歩20分ほどなので、ストイックに観光するには良いかと。
バスタブ付きの部屋だったので、脚を伸ばしてゆっくりできるのは、歩きづめになりがちな武夷山観光にはありがたかったですね。

大紅袍マークの付いた茶器が、部屋にセットされているのも、お茶好きさんの宿泊先としては高評価です。

・・・ま、私は今回、使わなかったんですけどw

というわけで、武夷山初日は終了。
軽く過ごすつもりが、結構がっつりになってしまいました。

明日は、いよいよ九曲渓下りと大紅袍に会いに行きます。

続く。

 

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