中国旅行

春の四川省茶旅2019(10)雅安茶廠

雅安茶廠へ

雅安2日目です。
今日はある意味、今回の旅行の一番の目玉かもしれません。
元国営企業である雅安茶廠への訪問です。

蔵茶は中国にとっては戦略物資です。
少数民族政策、特に最もセンシティブでもあるチベット向けの政策を握る物資です。
そのような性質のものだからか、出発前のアポイント調整の時から、色々と要求もありました。

参加者の方は知らないのですが、実はここだけなんですよね。
事前に「参加者名簿をください」と言われたのは。

そんなこともあって、「生産ラインはお見せできませんが、それ以外ならお見せしますよ」と言われていたんですが、ちょっと半信半疑でした。
なにしろ、元国営企業ですからね・・・

雅安茶廠は以前は、市内にあったそうですが、現在は郊外の工業団地のようなところに移っています。
(なお、元の場所は、雅安市博物館になっており、翌日訪問しました)

入口の門を入ると、こんな金属製のプレートがお出迎えです。

謝絶参観

この会社の製造技術は既に国家無形文化遺産の保護下にあるので、見学お断りやで

雅安南路辺茶商会

と書いてあります。

あー、やっぱり見学お断りじゃないの・・・

と思いつつ、隣の中国蔵茶博物館は入れると聞いていたので、そちらに向かいます。

中国蔵茶博物館

前には、同じホテルに泊まっていた上海から来た茶旅のご一行様がいて、こちらもゾロゾロと入っていきます。
※実は前日、ホテルのレストランに少し早めに行ったら、「茶旅の方ですか?」と言われ、「ハイ」と答えたら、彼らの個室に案内されていたんですよね・・・(^^;)

入口を入ると、毛沢東語録と習近平の言葉がお出迎え。

「今後は山をどんどん茶園として開拓せよ」という毛沢東の言葉に、

「一枚の葉っぱが、庶民を豊かにする」という習近平の言葉です。
習近平のこの言葉が一つの契機になって、今ではあまり産業の無い農村部では「お茶で貧困脱出!」というのが街おこしの成功パターンになっています。

お茶って、とっても政治的な側面があるんですね。
現代のお茶を語る上では、そこを否定したり無視することはできないわけですよ。

入口付近では、人形を使って蔵茶の製法を紹介しています。

ただ、正直なところ、工程が多すぎて全てを把握するのは難しいです。
あとで聞いたところ、蔵茶の製造工程は32の工程に分かれているそうで。
一応、ポイントになるキーワードとしては、”三蒸三揉四発酵”だそうです。

まず、蔵茶で使われる生葉は、かなり下の方の木化が始まっているような部位(紅苔)まで使用するので、茶葉が硬いんですね。
それを揉み込むには茶葉を柔らかくする必要があり、そのため蒸すわけです。
その蒸して揉んでを3回繰り返す工程が、”三蒸三揉”です。
これで茶葉をでろんでろんにした上で、渥堆発酵を行うんですが、これもかなり長期間になるそうです。

博物館には、かつて使用していた古い機械なども置いてありました。

昨日の甘社長のところは、微生物の否定などもあり、かなり現代化している製法だと思います。
が、こちらは機械化を進めつつも、伝統製法に則った茶作りを行っているようです。

ひとくちに蔵茶といっても、日本酒が酒蔵ごとに味わいが違うように、メーカーごとの差もかなりありそうです。
色々なメーカーのを買って飲み比べてみたいですなぁ・・・

歴史的な展示も多数

博物館には歴史的な展示もかなりあり、この充実ぶりがすごかったです。
なにしろ、雅安茶廠は合併を繰り返して国営企業になったわけですが、そのルーツをたどると、西暦1546年創業とのこと。
そんな歴史的な企業であるためか、歴史の重みが違います。

さまざまな指示書などの文書や、渥堆発酵を学びに来た他の茶葉工場の担当者からのお礼の手紙なども展示されています。

「いやー、これは歴史が変わっちゃいますよ」というぐらい貴重な文献があります。
興味を持って見始めると、時間がいくらあっても足りません・・・

新しい見学コースへ

「この博物館を見られて、満足。さあ、お茶買って、茶馬古道に行くか。時間もオーバーしちゃったし」

と思っていたのですが、広報の担当の方より「今、建設中なんですけど、新しい見学コースにご案内しますよ」との申し出が。
博物館の横から出てみると、雰囲気が違います。

「雅安人民の茶廠」と書いてあります。
”謝絶参観”どころか、「地域の皆様の茶廠でございます」と言っています。
なに、この手のひら返し。

しかもこちらにあるのは・・・

マニ車ではないですか。

・・・ええ、観光客なもので、みんなでガラガラ回しました(^^;)

どうやら、茶旅の受け入れをするように指示が来ているようで、雅安茶廠もその例外では無いようです。
ですので、このあたりからは観光を意識した区画のようです。

「まずは茶葉の貯蔵庫をお見せしましょう」

ということで、倉庫のような建物の見学通路を歩いて行くと・・・

見渡す限りの茶葉の山です。
黒茶の原料茶(荒茶)を生産年や季節、産地など別に保管しているそうです。
これらをブレンドして緊圧、貯蔵してから出荷するのですが、ここに見えるだけでも、かなりの量のお茶があります。
案内担当者の「工場の生産能力は2万トンです」という話を「いやいや、それは冗談でしょう。2万トンって日本茶の生産量の4分の1よ」と思っていたのですが、これなら可能かもしれませんね。スケールが違いすぎた。。。

さらに奥の方まで行ってみると、緊圧工程をやる作業場が。

下から蒸気が上がってますが、これで蒸して、機械で成型するんでしょうね。
さらには一度、竹でひとまとまりにして寝かせて置いたお茶を切り出して、再包装する退磚の工程も。

これは大きさ的に金尖茶(1つのブロックが2.5kg)のようです。
ここまで見せてもらえるんですね。

それをひとまとまりの束にして、出荷を待つところまでは見られるようにしているようです。

渥堆発酵など、製法に関わるところは見せられないけれども、働いている人たちの様子は見られるようにしたようです。
中国でも都会の人たちは、地方の工場だったりすると衛生面や労働者のモラルを心配したりするのですが、そのへんを払拭する試みなのかもしれません。
職場の環境を見る限りは、機会などは少し旧式な感じですが、スタッフの方はテキパキと働いていて、整理整頓もきちんとできている感じで、印象は悪くなかったです。

熟成庫と茶文化体験ゾーン

続いて、「製品の貯蔵庫を見せましょう」ということになり別の建物へ。

蔵茶のパスワードと書いてある紙が一枚。
「まだ建設中なんで、仮の看板ですみません」と。

中に入ってみると・・・

柱のように天井まで積み上げられた物体。
よく見ると、これは蔵茶ですね。

竹で編まれた蔵茶の束がジェンガのように積み上がっています。
ものすごい量があります。

ウイスキー工場などに喩えれば、樽に詰めて熟成させておく熟成庫という位置づけのようです。

ここも見学コースとして開放する予定で、案内役はロボットがやる予定です、と。

伝統的なお茶の山にロボットという図は、少しシュールな感じもしますが、今の中国っぽいですね。

外に出てみると、壁面に無数のクエスチョンマークが。

クエスチョンマークの下の点の部分にQRコードが貼り付けられています。
これをスマホで読み取ると、蔵茶に関するクイズが出てきて、正解すると景品がもらえるようにする予定だとか。
担当者氏、「こういうのも楽しいかと思いまして・・・」と。
観光地化する気、満々やないか。。。

さらにこちらの建物へ。

現在建設中なのですが、こちらは四合院造りの建物になっていて、いくつかの部屋を作り、そこで各地の茶文化を紹介する予定なんだとか。

日本の間、ロシアの間のように区分けして、それぞれの地域の茶文化を紹介すると言っていました。
しかも、その壁面にはしっかり蔵茶(金尖茶)が用いられています。

雅安茶廠、実は建材子会社を持っていまして、茶を使った建材をビジネスにする計画も立てているようです。
今までは少数民族向けのお茶を確保するのに精一杯だったのが、余ってくるようになったので、他の使い道も・・・ということのようです。

色々見せていただいたものの未完成ということで、こうなるとやはり完成形を見たくなります。
「これ、来年には完成する?」と聞いたところ、「来年には大分できると思います」との回答。

「じゃあ、来年来ますね」と思わず言ってしまいました・・・

参加者の方もそう思った方がいるようで。
甘社長の工場も見学したいし、あっさりと茶旅の会で、来年も四川に再訪決定となりました(←これは予想外)

そのあと、入口近くの広間に戻って、広報担当の方から雅安茶廠の蔵茶作りについてのレクチャーを受け、質問タイムになります。
この間、もちろん蔵茶はわんこそば状態で、どんどん注がれる形式です。

広報担当の方は、地元出身でアメリカ帰りの若手の方。
ここでもやはり蔵茶はようやく漢民族が飲めるようになったお茶。
まだまだ知られていないので、どんどん情報を発信して、蔵茶の魅力を広めていきたい、と前向きでした。

そのために清華大学などの研究機関と成分の研究を行ったり、そうした内容をWeChatなどで積極的に情報発信をしているそうです。
こうしたことを思い切って、若手の人材を募集・登用し任せてしまうというのは、伝統的な企業でありながらも変化を起こすためにはこれしか無い、と考えているようです。日本企業も見習わないと。

この後、お買い物タイムもあったので、当初は1時間程度の訪問予定だったのが、結局、4時間近くもいました・・・
それでも全てを見られたわけでもなく、やはりもう一度訪問しないと・・・な気になってしまうぐらい、濃密でした。

とはいえ、茶馬古道の遺跡にも行かなければなりません。
かなり遅くなってしまったので、大急ぎで郊外に向かうことにします。

 

続く。

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